小さな演奏会何年ぶりかに、『ライアンの娘』を手にした。
『ライアンの娘』は、競馬予想で有名な作家である高橋源一郎氏が書いた心暖まる競馬恋愛小説である。


平成13年の春、第2回開催の東京競馬場で、配布されていたJRA発行のKEIBA CATALOGに掲載された。

物語は、ハンドルネーム『田舎教師』こと、バツいちの小説家、高木駿平の、ハンドルネーム『ライアンの娘』とのメール交換のシーンから始まる。

高木は、ある大手プロバイダーのチャットサイトの掲示板に、「スポーツ・競馬」と「読書・小説」を選択し、ハンドルネーム『田舎教師』として登場する。同じ「競馬」と「小説」を趣味に選んだ登録者リストの中で、ふと『ライアンの娘』のところで目が止まる。

「ライアンの娘 女性 二十五才 OL いたって地味なOL生活を送っています。メジロライアンと高木駿平の小説のファンです。よろしかったらメールを交換しませんか」

映画『ライアンの娘』は、高木のもっとも好きな映画で、『戦場にかける橋』、『アラビアのロレンス』で知られるデビット・リーン監督の代表作である。

高木は、メールを送る。「はじめまして。『ライアンの娘』さん。。。」と自己紹介から。。。そして、ハンドルネーム『ライアンの娘』のライアンの由来について、訪ねる。そうやって高木は、『田舎教師』として、『ライアンの娘』とメール交換を重ねることになる。

『ライアンの娘』から来る返事は、いつも高木のこころを暖かくする、さりげなく、かつこころのこもったものであり、いつまにか『ライアンの娘』とのメール交換は、高木にとってなくてはならないものになる。そう高木は『ライアンの娘』に恋をしていたのだ。

一方『ライアンの娘』こと常磐麻子の父親は、日本を代表する出版社の社長であり、競馬を唯一の趣味にしていた。麻子は、父親にとって、目に入れても痛くないほど可愛い、自慢の美しい娘だった。麻子は箱入り娘のお嬢様、プロファイルの前半は、友人のことを書いていたのだ。

麻子もサラブレッドが好きだった。しかし、父親が繁殖牝馬を処分するのを見て、内にこもってしまい、恋にも失望して、自殺未遂してしまう。心配した父親は、麻子をケンブリッジに留学させる。

父親とアイルランドのセリに行った麻子は、「あの馬がほしい」と言って、良血の『ローマノキュウジツ』という牝馬を32万ポンドで買ってもらう。

季節は、冬から春へ向かうころ、出版社の社長である麻子の父親は、JRAの主催するパーティで高木を見つけ、近々自分の馬、「ライアンノムスメ」が新馬デビューすることを語る。そして娘の麻子を呼び、高木に紹介する。衝撃の出会いのはずであったが、両者ともお互いが『田舎教師』と『ライアンの娘』であることを知らない。

それでも、高木と麻子は、お互いに何かを感じ取っていた。あれほど続いていた『田舎教師』と『ライアンの娘』メールの交換もなくなってしまった。

ついに高木は決心する。あなたに会って話したいことがあると『ライアンの娘』にメールを入れたのだった。数日後、『ライアンの娘』から返事のメール届いた。

「『田舎教師』さまへ
ライアンノムスメが今週の日曜日、東京競馬場でデビューします。その日、競馬場でお会いしたいと思います。十二時、場所はトキノミノルの記念像の前。わたしは、小さな白い日傘を持って行きます。『ライアンの娘』の最初のシーン、ローズが後で夫となるチャールズを出迎えに行く時持っていったあの日傘そっくりのものを。
                            ライアンの娘」

『ライアンノムスメ』は、麻子が種馬を選び、この世に生み出した『ローマノキュウジツ』の娘だった。その『ライアンノムスメ』も、今日から自分で道を切り開いて行かなければいけない競走馬なのだ。トキノミノルの像の前で佇みながら、麻子は自分の運命を『ライアンノムスメ』に重ねていた。いったい自分は、高木駿平と『田舎教師』のどちらを好きなのかと。そうだ、逃げてはいけない。

スタンドから男が近づいて来る。十二時ジャストだ。
麻子は、日傘を振り、小声で自分に言い聞かせた、『プレゾン!(ゲートイン)』と。。。


うう、何度読んでも、こころをほんのり暖かくしてくれる
『ライアンの娘』。
さぁ我々も、自分の競馬を見つけるために、『プレゾン!』。

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